2025年3月末より、新たな職として施設警備員の仕事を始めた。
52歳という年齢での新しい挑戦ではあったが、現在は田舎暮らしと両立する安定した働き方のひとつとして、この業務が生活の一部となっている。
施設警備員という選択肢
若い頃、雑踏警備のアルバイトをしていた経験がある。繁華街でのイベントや人出の多い場所での業務は、常に緊張感が伴い、体力的にも過酷だったが、不思議と当時はそれを「キツい」と感じることは少なかった。むしろ、人の流れを読んだり、状況に応じて臨機応変に対応することにやりがいを感じていた記憶がある。
しかし、年齢を重ね50代に差し掛かると、少しずつ体力の衰えを意識するようになった。長時間の立ち仕事や、不規則な勤務が続くと、翌日に疲れが残ることが増え、若い頃のような無理が利かなくなってきた。
そんな中、新しい土地への移住をきっかけに、改めて「どのような仕事であれば無理なく長く続けられるか」を真剣に考えるようになった。そして思い出したのが、過去の警備の仕事だった。今の自分の体力や生活リズムに合う形で、もう一度警備の仕事に関わることはできないだろうか──そう考え、まずは情報収集を始めた。
インターネットで「施設警備」という業務形態を知り、さらにYouTubeなどで実際の勤務風景や経験談をチェック。屋内での業務が中心であり、空調の効いた環境で働ける点、そして何よりも長時間の立哨や過度な肉体労働が少ない点に大きな魅力を感じた。
実際に応募してみると、施設によって業務内容に違いはあるものの、基本的には巡回・受付・監視業務が中心で、比較的落ち着いた雰囲気の中で仕事ができるという印象だった。移住先で決まった職場もその例にもれず、日々の業務はルーティン化されており、心身ともに無理なく取り組むことができている。
まだ始めたばかりではあるが、現時点では「この仕事を選んでよかった」と感じている。新しい環境にも少しずつ慣れてきたところで、今後どのような経験が積めるのか楽しみでもある。自分のペースを大切にしながら、これからじっくりと向き合っていきたい仕事だと感じている。
業務の流れと初期の試練
施設警備の基本は、「引継ぎで始まり、引継ぎで終わる」ことにある。出勤時には、前のシフトから業務の引継ぎを受け、当日の注意事項や特記事項を確認する。退勤時にも同様に、次の勤務者へ情報を的確に伝えることが求められる。これにより、24時間体制の中でも安全と業務の連続性が保たれている。
日々の主な業務内容は、以下のようなものである。
- 関係者の出入管理
許可された関係者のみが施設内に入れるよう、出入りの際にはIDや面識を確認し、時には来訪目的を尋ねることもある。セキュリティ上、ちょっとした気の緩みが事故やトラブルにつながるため、常に慎重な対応が求められる。 - 鍵の管理および記録
各フロアや部屋ごとに管理されている鍵を、関係者に貸し出したり、回収したりする業務。貸出・返却の時間や使用目的を記録し、紛失や誤使用がないように注意する必要がある。 - 巡回および立哨による警戒活動
決められたルートを一定間隔で巡回し、異常の有無を確認する。扉の施錠状況、火気の有無、不審物・不審者の確認などが主なチェック項目となる。天候に左右されない屋内巡回とはいえ、施設の規模によってはかなりの歩数をこなすことになる。 - 緊急時の対応および報告処理
火災報知器の作動や設備異常、救急対応が必要な場面など、イレギュラーな事態にも対応できるよう、日頃からマニュアルの確認やシミュレーションが重要になる。発生後には、速やかに報告書を作成し、関係部署に提出する。
そんな中で、最初に直面した大きな難関は、出入する関係者の「顔」と「名前」を覚えることであった。相手にとっては私ひとりを覚えるだけで済むが、こちらは数十名、場合によっては100名近い関係者を正確に把握しなければならない。業務中に名前で呼びかけたり、顔を見て即座に判断できるようになるには、相当な集中力と記憶力が求められた。
最初のうちは、IDカードに頼ったり、特徴をメモにとっておいたりと、いろいろな工夫を凝らした。それでも、マスク着用などで顔の全体が見えないと判断に迷うこともあり、何度も確認を取りながら覚える日々が続いた。間違えて別の人に鍵を渡しかけたこともあり、そのときは背筋が凍るような思いをした。
徐々に顔と名前が一致してくると、ようやく業務に余裕が生まれ、他の細かな点にも注意が向けられるようになった。まだまだ慣れない部分も多いが、この初期の試練を乗り越えることで、施設警備員としての基礎が築かれていくのだと実感している。
緊張感と平穏の価値
ある日、館内で避難訓練が実施された。事前に関係各所へは通知がなされていたため、多くのお客様も「今日は訓練がある」とわかっていたはずである。それでも、非常サイレンが館内に鳴り響いた瞬間は、何ともいえない緊張感が全体を包み込んだ。
「これは訓練です。落ち着いて行動してください」――マイクを通じて全館にアナウンスを行い、状況が混乱しないよう細心の注意を払う。その間、私たち警備員はマニュアルを頭に浮かべながら、館内の安全確認や報告の準備に追われていた。訓練とはいえ、操作や判断にミスがあれば、本番での対応に支障が出る。そうした思いが、全員の表情を自然と引き締めていた。
一方で、館内を見渡すと、多くのお客様はいつも通り、どこかのんびりとした様子で過ごしていた。アナウンスが流れている中でも、笑顔で買い物を続ける人や、ベンチでくつろぐ人の姿が目に入った。緊張感を滲ませながら持ち場を移動する私たちとは、明らかに温度差がある。そのギャップが、妙に印象的だった。
もちろん、お客様に過度な不安を与えずに訓練を遂行できたという意味では、それは成功だったのかもしれない。だが、裏側では私たち警備員が常に「もしこれが本当の火災だったら」という意識で動いていたことは、なかなか伝わるものではない。
サイレン解除、訓練結果の報告書作成、関係部署との情報共有……全てを終えて控室に戻ったとき、どっと疲れが押し寄せてきた。たとえ訓練でも、緊張感の連続だったことを物語っていた。
この経験を通じて改めて思うのは、「何も起こらない日常」がいかにありがたいかということだ。施設警備という仕事においては、「変化がない」「異常がない」ことこそが、最大の成果である。私たちの役割は、何も起きないように準備し続けること。その努力が表に出ることはほとんどないが、備えがあってこそ、平穏が守られているのだと実感した一日だった。
50代以降の働き方としての警備業務
50代を過ぎると、仕事に対して求めるものが少しずつ変わってきます。無理をして体に負担をかけるよりも、できるだけ長く、無理なく続けられること。そして、誰かの役に立っている実感を持てること。そんな働き方を望むようになってきました。
そうした中で出会ったのが、「施設警備」という仕事でした。施設内での勤務が中心なので、空調の効いた環境で落ち着いて働けるのが大きな魅力です。真夏の炎天下や真冬の寒さの中での作業と比べると、体への負担も少なく、年齢を重ねた体にはとても助かっています。
仕事内容も、基本的には決まった流れの中で行われるものが多く、巡回や出入管理、鍵の管理など、毎日の業務が少しずつ自分の中で定着していくのがわかります。覚えることはそれなりにありますが、急な変化や大きなプレッシャーが少ないぶん、自分のペースで落ち着いて取り組むことができます。
とはいえ、ただの「見守り役」ではありません。万が一のときには、素早く動いて判断する力も求められます。日々の業務や定期的な訓練を通じて、そうした場面に備える意識も自然と身についていきます。
この仕事の良いところは、日常の中にほどよい緊張感があることだと思います。ただ座って時間を過ごすだけではなく、施設全体の安全や安心を見守るという役割があることで、自分自身の中にも小さな誇りが生まれてきます。
がむしゃらに働く時期はもう過ぎたけれど、社会とつながりを持ち続けながら、まだまだ自分にできることがある。そんなふうに感じられる今の仕事は、これからの人生にとって、ちょうど良い距離感で寄り添ってくれる存在だと思っています。
職場での人間関係と居心地
今の勤務先では、私より年上の方も多く在籍しており、年齢層としては60代・70代の方々も珍しくありません。年が近いこともあってか、初日から変に緊張することもなく、自然な雰囲気の中で迎え入れていただきました。休憩中の何気ない会話や、交代時のちょっとした雑談の中にも、温かさがにじんでいて、どこか居心地の良い空気が流れています。
もともと人と話すことが嫌いではない性格だったこともあり、業務上のやり取り──たとえば受付での応対や、出入口での確認・説明など──も、あまり構えることなくこなせています。ベテランの先輩方も気さくに話しかけてくださるので、業務に関するアドバイスも受けやすく、わからないことも気軽に聞ける環境がありがたいです。
ときには仕事以外の話題でも盛り上がります。「昔こんな現場があってね」「退職後、こういう趣味を始めたんだよ」など、年齢を重ねたからこそのエピソードに耳を傾ける時間もまた、この職場ならではの楽しさのひとつだと感じています。そうした何気ないやり取りが、緊張をほぐし、自然とチームワークにもつながっているように思います。
もちろん、仕事中はそれぞれが持ち場に集中して真面目に取り組んでいますが、ピリピリした空気とは無縁で、全体として落ち着いた穏やかな雰囲気が保たれています。年齢や経験に応じてお互いを尊重し合い、支え合う関係が築かれているのが、この職場の何よりの魅力かもしれません。
「この年齢で新しい職場に馴染めるだろうか」と多少の不安もありましたが、それはまったくの杞憂でした。今では出勤するのが楽しみのひとつになっていて、「いい環境に巡り会えたな」としみじみ感じています。
今後の目標と働き方の展望
現在は、国家資格である「警備業務検定」の取得に向けて、毎日少しずつ勉強を進めています。この資格は、より専門的な知識と技能を身につけるうえで大切なステップだと考えており、自分の成長にもつながるものと感じています。体力や健康面が許す限り、今後もこの仕事を続けていきたいと思っていますが、もし条件の良い別の職務が見つかれば、その可能性も前向きに検討していくつもりです。
働くことは、単にお金を稼ぐ手段だけではないと実感しています。毎日の生活にリズムを与え、目標ややりがいをもたらしてくれる大切な要素です。仕事を通じて新しい人と出会い、学び、責任を果たすことで、日々の充実感が得られます。特に同じ職場の仲間と助け合いながら過ごす時間は、私にとって心の支えにもなっています。
これからも無理をせず、自分のペースで仕事と向き合いながら、心身ともに健康でいられるよう努めていきたいです。そして、資格取得を通じて新しいスキルを身につけ、より安心して働ける環境を築いていければと願っています。
働き続けることで、生活に張りが生まれ、自分自身の存在価値を感じることができる。そんな喜びを大切にしながら、これからの時間を過ごしていきたいと思います。
田舎暮らしと仕事の両立
田舎での仕事探しは、都市部と比べて選択肢が少ないと感じることもあるかもしれない。しかし、一つの仕事にこだわらず、複数の小さな仕事を組み合わせることで安定した生活を構築することが可能である。
実際、私の働き方は、施設警備が週3~4日、ガソリンスタンドでの勤務が週2日程度となっている。それ以外の日は、家庭菜園の作業や鶏の飼育、メルカリショップスでの中古メディア販売にあてている。
出勤時間が早い日には朝4時半に自宅を出ることもあるが、徐々に慣れてきた。ただし、これから初めて迎える冬の寒さには備えが必要であるかなと感じている。
田舎では移動は主に自家用車で行われるため、都会のような満員電車とは無縁である。精神的な負担が大きく軽減されている点も、田舎で働くことの大きな魅力の一つである。
おわりに
施設警備員という職業は、私が田舎暮らしの中で見つけた、自分にとってまさに“ちょうど良い働き方”でした。派手さはないものの、毎日の業務には安心感とやりがいがあり、何も問題が起きない平穏な日々こそが、この仕事における最大の成果だと改めて実感しています。
田舎での生活と仕事を両立させることで、心身ともに無理なく過ごせる時間を持てることは大きな幸せです。これから同じように地方での生活や働き方を考えている方にとって、私の経験が少しでも参考になれば嬉しく思います。
働き方は人それぞれですが、自分に合ったペースや環境を見つけることが、穏やかで充実した毎日を送るための大切なポイントです。どうか焦らず、無理せず、自分自身のペースで新しい一歩を踏み出してほしいと願っています。
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