田舎で働くという選択肢。
都市部から離れ、自然に囲まれた環境で穏やかに暮らす――
そんな「田舎暮らし」に憧れを持つ方は少なくありません。特に、セカンドライフを意識し始める50代以降の世代には、「老後は田舎でのんびり過ごしたい」という声も多く聞かれます。
しかし、実際に田舎へ移住するとなると「収入はどうする?」「働き口はあるのか?」という現実的な不安がつきまといます。
この記事では、大阪から山口県へ移住し、危険物乙種第四類の資格を活かして働く筆者が、リアルな体験をもとに、田舎での仕事と暮らしについて紹介します。資格の活かし方、移住前の準備、そして夢の実現まで、ぜひ参考にしてください。
危険物乙4を活かした新しい仕事への挑戦
私が田舎で働くことを考えたとき、真っ先に思い浮かんだのが「ガソリンスタンドの仕事」でした。というのも、地方では車が生活の中心にあります。買い物に行くにも、通勤するにも、子どもを送迎するにも車が必要不可欠。その車を動かすために欠かせないのが、ガソリンスタンドです。言い換えれば、地域の暮らしを支えるインフラの一部。そんな場所で働けることに、私は大きな意味を感じました。
実は、私は以前、都心でビルメンテナンスの仕事に就いていました。30代の頃のことです。仕事は忙しく、日々の業務をこなすだけで精一杯な日もありましたが、そんな中でも「将来のために何か資格を取りたい」と思い、通勤中の電車の中でコツコツと勉強を続けていました。そして取得したのが、危険物乙種第四類、通称「乙4」です。正直なところ、当時は「いつか役に立てばいいな」くらいの気持ちでした。
しかし、それから数十年の時を経て、人生の転機が訪れました。都会を離れ、地方への移住を決意したとき、再び「乙4」の資格が私の手元にあることに気づいたのです。そしてその資格が、新しい土地での再スタートを力強く後押ししてくれました。
今では地域のガソリンスタンドで働きながら、日々のやりがいを実感しています。お客様と交わす何気ない会話、地域の安全と安心を支えるという責任感。あのときの小さな努力が、今こうして大きな実を結んでいることに、しみじみと感謝しています。
セルフガソリンスタンドで「給油監視員」として活躍
移住を決意した当初、私はこれまでの経験を活かし、ビルメンテナンスの仕事を探していました。長年携わってきた分野だったこともあり、「きっと地方でも同じような仕事があるだろう」と、ある程度の自信を持っていたのです。
しかし、現実は思い描いていた通りにはいきませんでした。地方では、ビルそのものの数が少ない上に、メンテナンス業務も都市部ほど需要が多くはなく、希望するような職種を見つけるのは容易ではありませんでした。年齢的なハードルも感じ始め、少し焦りを覚える日々が続きました。
そんなとき、ふと頭に浮かんだのが、過去に取得していた「危険物乙種第四類(乙4)」の資格でした。「もしかしたら、これを活かせる仕事があるのではないか?」と調べてみたところ、セルフ式ガソリンスタンドの監視業務が目に留まりました。
セルフスタンドの監視業務では、利用者が正しく、安全に給油しているかを確認するのが主な役割です。炎天下の屋外作業や重労働は少なく、モニターを通じての監視が中心となるため、身体的な負担は比較的軽めです。そのため、年齢を重ねても続けやすく、乙4の資格さえ持っていれば未経験でも採用されやすいという点も、大きな魅力でした。
実際に働き始めてみると、地元の方々の暮らしを裏方から支えているという実感があり、やりがいを感じています。ガソリンスタンドはただの給油所ではなく、地域の生活に密接に関わる存在です。安全を見守るという責任の重さもありますが、それ以上に、日々の仕事が地域に貢献できているという誇りが芽生えました。
あのとき、何気なく取った資格が、こんな形で自分の人生に再び光を当ててくれるとは思ってもいませんでした。まさに、「備えあれば憂いなし」。これからも地域に根ざした仕事を大切にしながら、次の一歩を踏み出していきたいと思っています。
田舎で“役立つ”意外な資格たち
田舎での暮らしでは、乙4以外にも「あると役立つ資格」が意外と多く存在します。たとえば…
- 大型特殊自動車免許…トラクターや農耕車が公道を走る際、特定の条件を超える場合にはこの免許が必要です。農業従事者の高齢化もあり、若い人の取得が期待されています。
- 狩猟免許…有害鳥獣対策や自給的な生活スタイルに関心のある方におすすめ。高齢化が進んでいる分野のひとつで、担い手が不足しています。
私自身は、移住する前に消防設備士第六類、第1級陸上特殊無線技士、刈払い機の安全講習、食品衛生責任者などを取得・受講しました。
「あればできるが、なければできない」
まさにその通りで、資格は行動の選択肢を増やしてくれるツールとなります。
日常にある“田舎ならでは”の癒しとやりがい
現在は、ガソリンスタンドのアルバイトに加え、家庭菜園や小規模な鶏の飼育(養鶏)、メルカリショップスでの物販も行っています。
● 鶏とともに始まる一日
早朝、鶏の鳴き声で目が覚め、井戸水で顔を洗い、冷たい水にシャキッと目が覚める――そんな朝のルーティンが心地よいスタートになります。
夜は薪で沸かした風呂に入り、自然のリズムに合わせた生活で心も体も整います。
● 小さな成功が、日々を楽しくする
卵の収穫、ひよこが孵った瞬間、菜園で野菜が育つ嬉しさ、メルカリで商品が売れた瞬間の喜びなど、毎日が「小さな達成感の積み重ね」です。特にスイカやメロンが順調に育っている時は、テンションが上がります(今のところ成功率は低いですが…笑)。
資格勉強は、合格がすべてじゃない
移住を決めてからというもの、私はただ生活を変えるのではなく、「どうすればより良い暮らしができるか」を常に考えるようになりました。そんな中で挑戦したのが、「宅地建物取引士(宅建士)」の資格試験です。実際に田舎で暮らすとなると、家や土地の取得は避けて通れません。専門知識があれば、より納得のいく判断ができるのではないか、そんな思いから勉強を始めました。
正直に言うと、結果は2度受けてどちらも不合格。合格という目標には届きませんでした。でも、不思議と「無駄だった」とは思っていません。それどころか、勉強を通じて得た知識は、実生活の中で確かな手応えとなって現れました。
空き家バンクを活用して物件を探した際には、相場感や価格交渉のポイントが自然と分かるようになっており、売主との交渉でも自信を持って話すことができました。また、住宅購入の際に見落としがちな「ホームインスペクション(住宅診断)」の重要性を学んでいたおかげで、専門業者に依頼し、安心して物件を選ぶことができました。これは知識があったからこそできた選択です。
「合格はできなかったけれど、挑戦は決して無駄ではなかった」と、今では心からそう思います。資格試験の勉強は、単なる合否を超えて、自分の視野を広げ、人生の選択肢を増やしてくれる——まさにその好例だと実感しています。
そして、私の挑戦に触発されたのか、妻もまた、田舎暮らしに向けて着実に準備を進めてくれました。彼女は罠猟の狩猟免許を取得し、さらに日常の足として原付免許も手に入れました。都市部にいた頃には想像もしなかったような方向に、私たちの人生は静かに、しかし確実に広がっていきました。
夫婦で役割を分担しながら、それぞれが得意なことを活かして新しい生活を築いていく。この「チームとしての移住」が、私たちの暮らしを支える大きな柱になっています。お互いに背中を押し合い、支え合いながら前に進んできたこの時間は、何ものにも代えがたい宝物です。
これから叶えたい“夢のカタチ”
「卵かけご飯専門店を開いてみたい」「採れたての野菜を無人販売所や道の駅で売ってみたい」——そんな夢や構想が、単なる“夢”で終わらず、「もしかしたら実現できるかもしれない」と思えるのが、田舎暮らしの一番の魅力かもしれません。
都会で暮らしていた頃は、何かを始めようとすると、多くの資金や競争、複雑な手続きが壁となり、夢を語ることすらためらっていました。しかし、田舎では土地も比較的安く、地域の人々との距離も近いため、やろうと思えば少しずつ形にしていける環境があります。
例えば、小さな古民家の一角を改装して、朝だけ営業する卵かけご飯の店を開いてみる。地元の農家から仕入れた新鮮な卵と、自分たちで育てたお米を使って——そんな風景が、現実として頭の中に浮かんできます。
また、家庭菜園や畑で収穫した野菜が余ったら、近所の無人販売所に並べてみたり、週末には道の駅に持っていって小さな直売スペースを借りてみたり。そうした営みは、収入だけでなく、地域とのつながりや生活の豊かさにもつながります。
もちろん、すべてがすぐにうまくいくわけではありません。でも、「やってみよう」と思える環境があり、「誰かが応援してくれるかもしれない」と思える空気があることは、大きな励みになります。
夢や構想は、思っている以上に次々と膨らんでいくものです。そして、それが叶うかもしれないという希望が、日々の暮らしに彩りを与えてくれます。田舎暮らしには、そんな“余白”と“可能性”があるのです。
移住を考える方へ:準備と情報収集は必須
何度でも強調して伝えたいのが、「地域の求人情報は事前に、そして継続的にチェックしておくべき」ということです。これは、移住を検討する際に軽視されがちですが、実際には生活の土台を作るうえで非常に重要なポイントです。
移住先での仕事探しは、思っている以上に厳しい場面もあります。たとえば、スーパーやドラッグストアといった比較的人気のある職種は、応募者が多く競争率も高くなりがちです。これは、移住者だけが仕事を探しているわけではなく、地元に住む方々にとっても大切な職場であるからです。限られた求人枠に多くの人が応募するため、「なんとかなるだろう」と安易に考えていると、なかなか採用に至らないという現実に直面します。
だからこそ、移住前から自分のスキルや資格を棚卸しし、必要であれば計画的に資格を取得しておくことが大切です。たとえば私自身も、以前取得していた危険物乙種第四類(乙4)の資格が、移住後の就職において大きな助けとなりました。資格があることで、求人の選択肢が広がるだけでなく、採用側からも「即戦力」として見てもらいやすくなります。
資格の有無がすべてではありませんが、自分の強みを可視化できるという点でも、事前準備は非常に効果的です。たとえ一度で合格しなくても、勉強を通じて得た知識は、移住後の生活や意思決定の場面で必ず役に立ちます。
求人情報は移住後に探すのではなく、むしろ「移住を考え始めたその時から」チェックを始めておくべきです。自治体の公式サイトや地元のハローワーク、求人情報誌、移住者向けの支援団体の情報など、地道に情報収集しておくことが、移住後のスムーズな生活設計につながります。
「仕事があるからこそ生活が成り立つ」——この当たり前の事実をしっかり意識しながら準備を進めることが、安心して田舎暮らしをスタートさせるための大切な一歩になると、私は強く感じています。
まとめ
「少年よ、大志を抱け」という言葉がありますが、私は今、「高齢者よ、老後のキャンパスに夢を描け」と声をかけたい気持ちでいます。
人生の後半に差し掛かったからといって、夢を持つことをあきらめる必要はありません。むしろ年齢を重ねてきたからこそ見える風景があり、だからこそ描ける夢があります。若い頃とは違った視点で、自分にとって本当に大切なものに気づけるのも、人生の後半の豊かさの一つだと思います。
田舎には、夢を形にするために必要な「時間」「土地」、そして「人とのつながり」が揃っています。都会では難しいと感じていたことも、田舎では少しずつ手作りで実現できる。誰かの評価やスピード競争に振り回されるのではなく、自分のペースで、自分らしく歩んでいける場所が、ここにはあります。
畑を耕しながら季節の移ろいを感じるのもいい。自宅の一角を小さなお店にして、得意な料理や手仕事を誰かに届けるのも素敵です。静かな自然の中で、長年やりたかったことにもう一度取り組んでみるのもいいでしょう。
夢に年齢制限はありません。挑戦に「もう遅い」という言葉はないのです。
「自分にはもう関係ない」と思わずに、老後だからこそ描ける、新しい人生のキャンパスに、あなたの夢を描いてみてください。
人生の次のページに、まだ見ぬ物語を綴るチャンスが、きっと田舎にはあります。
あなたも、自分だけの“キャンパス”を広げに、田舎での新しい一歩を踏み出してみませんか?
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